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透析患者の生命を脅かす「三大疾患」について

透析患者の生命を脅かす「三大疾患」について、
それぞれ透析患者がなりやすい理由と予防について

日本透析医学会の直近の「わが国 の慢性透析療法の現況」によれば、透析患者の死亡原因の第1位は「心不全」、第2位は「感染症」、第3位もしくは第4位は「脳血管障害(脳卒中<脳出血・ 脳梗塞>)」です。

これらの透析患者の死因「三大疾患」は、順位の変動はあるものの近年不動のものとなっています。

 そこで、「三大疾患」それぞれについて、透析患者がなりやすい理由と予防等を次にまとめておきますので、「自己管理」の面でも参考にされて下さい。

心不全

透析患者がなりやすい理由

  1. 尿量の減少あるいは無尿になると、摂取した水分や塩分はそのまま体重増加に繋がって、心臓への負担を増します。透析間の体重増加が多く、透析のたびにドライウェイト(DW)までしっかり除水できない場合には、過剰な水分を常に体内に残してしまうことになり、心臓への負担を増すことに繋がります。
  2. 血圧の管理が悪く高血圧が長期に持続すると、心臓肥大を生じて心臓への負担が増します。
  3. リンやカルシウムの管理が悪いと、心臓の筋肉の働きを障害し、心臓の弁の石灰化から心弁膜症(大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症)を生じて心不全を起こしやすくなります。
  4. 貧血は心臓の働きを障害し、心不全を起こしやすくします。
  5. 十分な透析を行っていない場合には、尿毒症性の心筋障害を生じる危険性があります。
  6. 糖尿病や高血圧・高脂血症・喫煙歴のある人、高齢者は動脈硬化が進行しやすく、虚血性の心臓病を生じやすくなっており、狭心症や心筋梗塞等の虚血性心臓病は心不全の大きな危険因子となります。

予防

  1. うっ血性心不全の症状は、呼吸困 難・起座呼吸(横になると苦しくなるため、座った状態でないといられない)・全身浮腫ですので、こうならないように、特に体重が最も多くなる中2日の週末 から週明けにかけて最もうっ血性心不全を生じやすいので、週末は体重を極力増やさないことが大事です。
  2. 体重の適切な管理や血圧の管理、食事での塩分やリンのコントロール等、「自己管理」をしっかり行なうとともに日常医療側からも十分な透析効率を確保してもらうことで、心不全の危険をかなり軽減することができます。

感染症

透析患者がなりやすい理由

  1. 食事制限や透析膜からの栄養素の漏出による栄養状態の不良
  2. 細菌等に対する白血球機能の低下
    (考えられる原因:リン・カルシウム及び鉄の代謝異常)
  3. 糖尿病患者の増加
    (考えられる原因:血糖値のコントロール不良による抵抗力の低下)

尚、透析患者に起こりやすい感染症としては主に次のような疾患が考えられます。

  • 尿の停滞(尿量減少、無尿)による尿路感染症
  • 皮膚乾燥症やかゆみ、血行障害等による皮膚感染症
  • 肺炎等の気道感染症
  • 腸内細菌叢の変化による消化管感染症
  • 内シャントの感染症

<参考>「腸内細菌叢」とは?
腸内細菌は百種類以上百兆個も住んでいると言われています。
それらは「腸内細菌叢(腸内フローラ)」と呼ばれ、同じ種類の細菌同士が群生しています。善玉菌が優性のフローラであれば、健康が維持され、悪玉菌が優勢の時には体調が悪くなります。

予防

  1. 身体の清潔に努めましょう。皮膚の小さな傷も重大な感染症にかかる原因となります。
  2. 外出後のうがい、手洗いを確実に行いましょう。気道からの細菌混入に気をつけましょう。人ごみではマスクの着用をお勧めします。
  3. 食事指導に準じ栄養バランスのとれた食事を摂取しましょう。塩分・カリウム・蛋白質等制限が必要な栄養素は多いですが、制限範囲内では、良質で十分な栄養素を摂取するよう心がけましょう。また、過度な栄養制限も栄養不良を起こす引き金となりますので、食事につい不明な点があれば栄養士・看護師・ドクターに聴きましょう。
  4. 十分な透析治療を受けましょう。透析不足による過度の尿毒素の蓄積は、白血球機能の低下を引き起こします。
  5. 身体の傷・咳・発熱・尿の混濁等体調に変化を自覚したら、早めに主治医の先生に相談しましょう。早期発見・早期治療は感染症治療に重要です。

 尚、「わが国の慢性透析療法の現況」では、感染症の中に「肺炎」がどれだけの比率を占めるかは不明ですが、少なくない数字であろうと推測されます。

 昨今、「インフルエンザウイルスワクチン(IVV)」のみならず、「肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPV)」の予防接種が広く知られるようになりました。血液透析患者への「PPV」接種は、肺炎発症の予防に関し限界も多少ありますが、非接種時の肺炎発症の際の多大な医療費コストの点を考えるとその接種が患者本人のQOL維持という点だけでなく、医療経済的にも有用であるのは間違いのないところです。

ついでにここで、腎不全患者のインフルエンザ治療について、そのポイントを説明しておきます。

 透析患者をはじめ腎不全患者のインフルエンザ治療についても、早期に診断し、抗インフルエンザ薬による治療と感染の拡大防止が重要です。即ち、従来の安静・解熱薬の投与といった対症療法から、迅速検査を実施して、作用機序の異なる2種類の抗インフルエンザ薬を投与するという診療に変わってきています。
2種類の抗インフルエンザ薬とは、一つは、「ノイラミニダーゼ」を阻害し感染細胞からウイルスの放出を阻害する「オセルタミビル(タミフル)」があります。
「オセルタミビル(タミフル)」は、A型のみならずB型にも有効であり、両剤とも治療と予防の効果が認められています。

 このような抗インフルエンザ薬は、インフルエンザ発症後48時間以内での投与で効果が認められるため、発症後48時間以降では対症療法や合併症の治療を行うことになります。
「オセルタミビル(タミフル)」は、健腎者では1回75mg(商品名:タミフルカプセル75)を1日2回、5日間経口服用するとされていますが、血液透析患者と腹膜透析患者では75mgの単回投与により、5日間にわたりインフルエンザウイルスに効果を示す薬剤の濃度を維持することが報告されています。いずれにしても、透析患者がインフルエンザにかかってしまったら、上記のことを踏まえ、主治医の先生にその使用量を含め適宜適切に対処・薬剤処方をしてもらいましょう。それから、何と言ってもインフルエンザの予防は、「ワクチン接種・マスク・手洗い・うがい」の4点セットが基本です。また、透析患者は免疫力が低下しており、血液透析施設では多数の患者が同一室内で治療を受けるため、インフルエンザに対する感染対策は極めて重要であることを透析患者それぞれが厳しく認識しておきましょう。

脳血管障害(脳卒中<脳出血・脳梗塞>)

透析患者がなりやすい理由

  1. 脳出血の最も強力な危険因子は高血圧です。透析患者の脳出血は、50歳以下の比較的若く高血圧の治療が不十分な人で多い傾向があります。
  2. 脳梗塞の原因は動脈硬化症で、その悪化にも高血圧が大きくかかわっています。動脈硬化症は加齢に伴う生理的な変化ですが、透析患者では変化が著しく、動脈硬化症の進み具合が早いと考えられています。
  3. 透析患者の脳出血や脳梗塞の原因となる高血圧は“水”(=生理食塩液:0.9%食塩水)の貯留がかかわっています。

予防

  1. 脳出血や脳梗塞の原因となる高血圧の治療は、何と言っても“水”の貯留を改善することが基本で、それでも血圧が高いときに、血管を拡張させて緊張を和らげる降圧薬を使います。繰り返しますが、脳出血にしても脳梗塞にしても、これら脳卒中を予防するには“水”の貯留を最小限にして除水を極力少なくすることが大事であると改めて肝に銘じましょう。
  2. 自分の動脈硬化症がどの程度か、どの部分でひどいのか、脳へ通ずる動脈ではどうかなどを、頸動脈エコー、四肢血圧、MRA等で調べてみましょう。首の動脈(頸動脈と椎骨動脈)に狭い部分やつまっている箇所があれば、手術の必要性があるか、手術しても大丈夫かなどを慎重に考える必要があります。手術ができない場合は、透析中・透析後・立位姿勢・降圧薬等による血圧の低下が最小限に留まるよう透析の方法を工夫し、血圧の低下を防止する薬剤を選択する必要があります。1日血圧を検査して、どのようなときに血圧が極端に下がっているかを知り、その状態を避けることも大事です。しびれ・ろれつがまわらない・手足の運動が不自由になったときなど、自分の症状を早め早めに知らせることも大事です。発見が早いと、つまった血栓を取り除く治療や溶かす治療法等があり、有効性も確かめられています。

 

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